美しい景観
 ヨーロッパの景観規制
Note

ヨーロッパ(特に西ヨーロッパ)の多くの国では、早くから都市計画で都市景観の保全、形成に取組んできた。 イタリア、フランスでは1900年代初頭から歴史的景観に関する法律を定めて、都市景観に関する様々な規制 を行っている。連邦制のドイツでは、自然保護法及び連邦の建設法典で景観の保護をすすめている。何れの 国でも、国の責務として景観や歴史的遺産の保護を憲法に位置づけており、景観に関する法律や条例は相 当細部にわたって規定されている。さらに、美しい景観を創るための土地所有権の制限を認めており、美しい 景観づくりは国民の責任としても深く浸透しているように見受けられる。
ここでは、イタリア、フランス、ドイツを例に、景観規制の歴史と法制度を概観してみる。

●イタリア
イタリアにおける風景保全に関連する法制度は、「文化財保護法」、「自然美保護法」、および「ガラッソ法」と いう3つの法律によって裏付けされている。
〜「文化財保護法」と「自然美保護法」〜
イタリアでは、第1次世界大戦前後(1910〜1920年代)から、歴史的価値や芸術的価値を有する公園や庭園 などの保護が叫ばれはじめ、1939年には「文化財保護法」と「自然美保護法」が制定される。これらの法律 は、歴史的価値や美術的価値が優れるとされる場所や建物、公園などの特定して、その保護を義務付けた。 しかし、法律に指定されていない場所や地域では景観を損ねる開発が継続して行われることになる。
〜「都市計画法改訂措置法」による歴史地区の保存〜
第2次大戦後には、都市部では無秩序なスプロール現象が起こり、中心市街地である歴史的地区の荒廃を 招いた。戦後の復興を経て経済状況が少しづつ改善されはじめると、歴史的地区の保存を目指す国民運動 が全国的に起こり、全ての自治体に歴史地区の保存を義務付ける「都市計画法改訂措置法」(通称、「橋渡し 法」) が1967年に制定される。画期的な「計画なければ開発なし」を理念とした同法の成立により、建築許可 交付の厳格化、不当な建設に対する制裁、計画策定能力を欠いた市町村に対する国の介入、歴史地区の区 域規定と保全計画策定までの建設活動の凍結などの制限や罰則が強化され、民間ディベロッパー等による 建築活動は大きく制約を受けることとなる。
〜「ガラッソ法」と風景計画、「都市マスタープラン」による規制〜
1985年には、国土全体の景観を保護するために「ガラッソ法」が制定される。この法律は、自然環境の保全と 歴史的資産の保護のために、全ての州に風景計画の策定を義務づけるとともに、風景上重要な地域の中か ら、建設行為などによる国土の改変を一時的に禁止できる地域を定める権限を州に与えている。風景計画の 内容として義務付けられているのは、各種の環境資源の体系的調査とその保全と利用を図る方法の提示で ある。そもそもガラッソ法は、自然環境を対象に検討されたものであるが、立法に携わった文化環境財省が自 然資源と歴史的資産の2つを所管することから、実際には自然環境のみならず歴史的環境の保全に関する 視点が多く盛り込まれることになり、自然美の風景に加えて歴史的風景を一体的に保全することとなった。
風景計画の策定方式は各州に任せられているが、計画の策定に際しては、州法によって国が指示するもの 以上の内容の上乗せが行われており、地域毎に個性あるものとなっている(国が示した雛形に頑固なまでに 従う日本的な手法とは大きく異なる)。
州内の自治体は、州の策定した風景計画に沿って「都市マスタープラン」を策定し、景観規制の具体的な行 動を行うことになっている。都市マスタープランでは、歴史的建造物が集まる「歴史都心地区」を指定し、これ に基づいて同地区内の建造物の工事に対して厳重な規制を行うとともに、屋外広告物や看板、ショーウインド ーの設置場所や材質、大きさ、照明等についても詳細な規制を行っている。

● フランス
フランスでは、1913年に歴史的建造物の保存法が制定されたのを期に、国家による歴史的建造物の保全が 本格化する。この法律は、指定・登録という2つの制度を設定して国家による1元的な把握を目指すものであっ た。
〜歴史的記念物周辺500mの規制〜
1943年には都市計画法が改正され、ゾーニングの手法の導入、用途による制限、建築禁止地区、工場制限 地区、自然景勝・歴史遺産の保護地区が指定される。さらに、歴史的記念物については、指定・登録を問わ ず半径500m以内の建物や場所の改変が規制の対象となり、景観的に問題ないかの審査が課されるように なった。
〜マルロー法の制定〜
1962年には、世界初の歴史的環境の保全制度となる「マルロー法」が制定され、歴史的環境の保全地区を 定めるとともに建物の修復を進めるための制度がつくられた。不動産修復事業を行なうための法律で、保全 地区はこの事業を優先して行なう地区とされた。しかし、この制度では保全対象地区に接する周囲の建物が 取り壊されたりする事態が生じたため、1983年には、地方分権を定めた法律が制定され、歴史的環境を保全 するためのに「建築的・都市的文化財保護区域」(ZPPAU)制度が設けられた。
〜風景法と土地占用計画による規制〜
さらに、1993年には、「風景法」(LOY PAYSAGE)が制定されて、景観保全の視点も加わった「建築的・都市 的・景観的文化財保護区域」(ZPPAUP)が指定された。「風景法」では、市町村の土地利用を規定する「土地 占用計画」(POS)において「景観の質の保全及びその変動の制御」に配慮することを義務づけた。市町村長 は、建築計画が「土地占用計画」に合致しない場合は建築を許可しないとされている。
「土地占用計画」では、高さ規制や容積率規制が設けられているが、さらに首都パリでは、市内の45箇所で 「ある特別な意味を持つ景観のなかに、これを阻害する性質の建造物が侵入することを防ぐ」ために景観ポイ ントからの三次元平面を設定し、この平面以下になるように建物の高さや壁面線規制(フュゾー規制)を行って いる。
*「風景法」:市町村の土地利用を規定する法的拘束力を持つ都市計画で、都市開発を計画・管理する こと、農地・景観・森林などの自然空間を保護することなどを主な目的としている。

● ドイツ
ドイツでは、連邦政府と州政府が景観に関する法律を制定している。連邦政府は、都市計画に関する「連邦 建設法典」(1986年制定)と自然保護に関する「連邦自然保護法」(1987年制定)で景観規制の基本法を定 め、具体的に個々の建設行為を規制・誘導する「建築法」は各州政府が制定している。
〜「連邦建設法典」、「連邦自然保護法」、「建築法」による規制〜
「連邦建設法典」は、都市計画に関する法律及び建築行為に関する多数の個別法から構成され、環境保護 への配慮、歴史的建造物の保護など、建築物と周辺環境との調和を詳しく規定している。
「連邦自然保護法」は、自然及び景観を人間の生活の基礎と位置づけ、保護、育成、発展させなければなら ないと規定しており、各州政府に対して自然保護法の作成を義務づけている。
「建築法」はすべての州で制定されており、内容は州政府によって異なるが、建築物の新築、改築、保全、利 用及び除去について極めて具体的に規定され、醜悪な建築物の建設を防止している。遊び場、公園、緑地な どの公共空間についても細かく設置義務を定めている。
〜「土地利用計画」と「地区計画」、「建築形成条例」などによる規制〜
さらに、自治体には都市管理計画の策定が義務付けられており、全域の土地利用を示す「土地利用計画」(F プラン)と区画単位の詳細な規制を示す「地区詳細計画」(Bプラン)の二種類の計画で開発をコントロールし ている。特にBプランでは、デザインに関して、街区道路、屋根の傾斜、屋根材、窓の形などについても非常 に詳細な内容を規定している。なお、全体と地区の2つの計画の繋ぎ役として「地区マスタープラン」が位置づ けられている。
またこれとは別に、各州の建築法に基づいて市町村が定める「建築形成条例」があり、一定の地域の建築物 及び周辺のデザイン、景観、駐車場、停車場、遊び場などに関して規定するほか、広告物も規制の対象とし ている。
  土地利用計画(Fプラン)
当該市町村全域について、概ね10〜15年程度を将来目標とし、あるべき土地利用の概要を示すマス タープランであり、市町村の議会の議決を経る。
  地区詳細計画(Bプラン)
街区単位の個別の地区毎(5〜10ha)に、Fプランに基づき市町村の条例で定められる詳細計画であ る。
土地利用の区分、道路・駐車場等の地区内交通施設、その他の公共施設用地、建築許容限度(壁 面線、建ぺい率、容積率)などを一体的、総合的に定める。
(Bプランを、市町村の全域にかけることはない。かつて、フランクフルト市では市内全域にBプランをつ くろうとしたが、時間が掛かり過ぎることもあって、ここ20年近く策定されていない。「現状よりも違った 方向に誘導していこう」という地区の場合に、Bプランを策定しているのが実態と聞く。)

私権の制限
イタリアでは、自然美保護法の時代から景観保全を目的として不動産の私権を制限しており、制限を受けた 不動産を許可なく破壊や改変した場合は、自己負担による復旧を求めている。こうした制限は憲法上問題が あるとして、何度か争われたようであるが、「景観保全を目的とした私権の制限は当然であり、こうした制限に 対する補償は特に行われない」と判決されているようである。
また、フランスでは、「土地占用計画」による私権の制限については、補償を行わなくても良い場合があるとさ れていおり、自由主義のフランスでさえ、美しさを守るためには私権を制限し公共を優先する姿勢が根底に流 れている。

このように、イタリア、フランス、ドイツでは、法律による景観形成方針の明示→景観保全地域の設定→景観 規制といった手順を法体系として示し、都市計画と一体的に景観形成をすすめている。以下に、一覧を示す。
イタリア・フランス・ドイツにおける景観規制制度
イタリア
フランス
ドイツ
景観規制の
法令
・文化財保護法(1939年)
・自然美保護法(1939年)
 歴史的価値や美術的価値が
ある場所や建物等の保護
・ガラッソ法(1985年)
 国土全体の景観保護のため
に風景計画の策定を定める
・歴史的建造物保存法
(1913年)
・マルロー法(1962年)
 歴史的保全地区、建物の修
復を定める
・風景法(1993年)
 土地占用計画の風景・景観
への配慮を定める
・ドイツ連邦建設法典
(1987年) 自治体における建
築的およびその他の土地利用
の基準を定める
・ドイツ連邦自然保護法
(1987年) 自然及び景観を人
間の生活の基礎と位置づけ、
保護・育成・発展させる
都市計画の
特徴
・全国土を対象とする一元的
土地利用規制
・都市計画法改定措置法
(1967年)
・都市マスタープラン
・全国土を対象とする一元的土
地利用規制
・土地占用計画(POS)
・歴史的・都市的・景観的文化
財保護区域(ZPPAUP、1993
年)
・全国土を対象とする一元的
土地利用規制
・都市管理計画
→建設管理計画(Fプラン)
→地区マスタープラン
→建設管理計画(Bプラン)
という重層的構造
都市計画と景
観規制の関係
・都市計画の一環として実施
・各州の風景計画による改変
の禁止
・州内自治体の定める都市マ
スタープランによる歴史都心
地区、構造物規格・工事、屋外
広告物等の具体的規定
・都市計画の一環として実施
・建築許可制度による景観の
質の保全及びその変動の抑制
(不許可にできる規定)
・マルロー法(1962年)による
歴史的保全地区の規定、建物
の修復規定
・パリでは45地点で景観の全
体保護のために高さ・壁面線

規制(フュゾー規制)
・都市計画の一環として実施
・Bプランによる建築形態等の
規制
・各自治体が定める「建築形
成条例」で建築物の他、公告
物も規制
私権の制限 景観保全を目的とした私権の
制限に対しては特に補償は行
われない
土地占用計画においては補償
を行わなくても良い場合あり
歴史的建造物の修理について
補助あり
考 温井亨「ガラッソ法とイタリアの風景保全」  西村幸夫ほか「都市の風景計画」
    上田貴雪「ヨーロッパの景観規制制度
    建設政策研究センター「景観・環境形成のための国土利用のあり方に関する研究」
  作成:2005.03.08 更新2005.06.04 更新2005.10.05    

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